『ティファニーで朝食を』 トルーマン・カポーティ 村上春樹訳 新

退屈な結論だけど、要するに『あなたが好きことをしているときにだけ、あなたに善きことが起こる』ってことなのよ。いや善きことというより、むしろ正直なことっていうべきかな。規律をしっかり守りましょう、みたいな正直さのことじゃないのよ。もしそれでとりあえず楽しい気持ちになれると思えば、私は墓だって暴くし、死者の目から25セント玉をむしり取ったりもするわよ。そうじゃなくて、私の言ってるのは、自らの則に従うみたいな正直さなわけ。ひきょう者や、猫っかぶりや、精神的なペテン師や、商売女じゃなきゃ、それこそなんだってかまわないの。不正直な心を持つくらいなら、がんを抱え込んだほうがまだましよ。だから信心深いとか、そういうことじゃないんだ。もっと実際的なもの。癌は、あなたを殺すかもしれなけど、もう一方のやつはあなたを間違いなく殺すのよ。(P130)

映画とは、けっこう違った内容で面白かったです。全体的に暗い話なんですが、読後感がすごくあったかいんですね。小説全体から受ける印象が良かったです。こういう読後感の本は、あまり記憶にないです。個人のコアになる部分は、かなりシンプルなもので、感覚的なもの。議論したり、言い合いをしてみるのは、自分の考えを相手に伝えたいからするわけですが、感覚的なコアから派生して目に見える部分で議論しても、うまくいかないことが多いのは、当たり前なのかもしれないですね。そこの労力をコントロールできれば、より楽な生き方になるのかもしれませんね。
「クリスマスの思い出」という短編も収録されているのですが、それもすごく良かったです。

ティファニーで朝食を

ティファニーで朝食を