『タイタンの妖女』 カート・ヴォネガット・ジュニア ハヤカワ文庫

むかしむかし、トラルファマドール星には、機械とは全く違った生物がすんでいた。彼らは信頼性がなかった。能率的でもなかった。予測がつかなかった。耐久力もなかった。おまけにこの哀れな生物たちは、存在するものすべて何らかの目的を持たねばならず、また、ある種の目的は他の目的よりもっと高尚だという観念に取りつかれていた。
この生物は、彼らの目的が一体何であるかを見出そうとする試みで、ほとんどの時間を費やしていた。そして、これこそは彼らの目的であると思われるものを見出すたびに、その目的のあまりの低級さにすっかり自己嫌悪と羞恥に陥るのが常だった。
そこでそんな低級な目的に奉仕するよりはと、生物たちはひとつの機械をこしらえ、それに奉仕を代行させることにした。これで、生物たちには、もっと高級な目的に奉仕する暇ができた。しかし、いくら前より高級な目的を見つけても、彼らはその目的の高級さになかなか満足できないのだった。
そこで、より高級な数々の目的に奉仕するよう、数々の機械が作られた。そして、これらの機械はあらゆることを見事にやってのけたので、とうとう生物たちの最高の目的がなんであるかを見つける仕事を仰せつかることになった。
機械たちは、生物たちが何かの目的を持っているとは到底考えられないという結論をありのままに報告した。
それを聞いて、生物たちは、お互いの殺し合いを始めた。彼らは目的のないものをなによりも憎んでいたからである。やがて彼らは、自分たちが殺し合いさえもあまりうまくないことに気づいた。そこで、その仕事も機械たちに任せることにした。そして機械たちは、(トラルファマドール)というのに要するよりも短い時間で、その仕事をやり終えてしまった。(P292)

次のエントリーの結論があるので、これも素敵な話だと思えます。