『彼女について』 よしもとばなな 文芸春秋 3

この世は生きるに値すると思う力よ。抱きしめられたこと、かわいがられたこと。それからいろいろな天気の日のいろいろな良い思い出を持っていること。おいしいものを食べさせてもらったこと、思いついたことを話して喜ばれたこと、疑うことなく誰かの子供でいたこと、温かい布団にくるまって寝たこと、自分はいてもいいんだと心底思いながらこの世に存在したこと。(P163)

この世を生きるに値すると思えない人たちには、社会でうまくやっていけていない人が多いでしょう。そういう人たちは、周囲の人にも相手にされないし、自分が有能でないことも知っています。その人たちが求めているのは、私は私なりにやっていくから、ほっておいてよ。みんな違って、みんないいっていう風に考えてよ、ということだと思います。


公教育が「生きる力」と称して、受容、承認、愛情、有能感、自己効力感などの社会的な力の育成を目指したことは、生きる力のない人にとっては、「ああ、周りの人だけでなくて、社会もわたしたちを疎外している。」と感じたことでしょう。ほんとに生きる力のない人たちが求めているのは、こういった「生きる力」ではなく、ここで引用しているようなやすらいだ個人経験に基づく「生きる力」なのではないでしょうか。



彼女について

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