『考えるヒント』 小林秀雄 文春文庫7

個人主義の時代は去ったという。そうかも知れない。個人主義の思想の欠陥をつく考え方は、いくらでもできよう。だが誰も実際の生活の上で、個人という或る統一体の形でしか生きようがないという基本の事実には歯が立つわけがない。個人主義の問題と個人の問題は別であるが、両者の関係を論じていれば、知らず識らずのうちに、両者を混同してしまうのである。人権の平等を主張しているうちに、人間の顔が、みんなのっぺらぼうに見えてくる、そういう賢者は、現代何処にもころがっている。(P76)


私を含めて、これらを混同して苦しんだ経験のある人はけっこういるのではないでしょうか。個人主義にしろ、全体主義にしろ、人生の旨みはあるのでしょうから、上手に付き合えればいいということですかね。


新装版 考えるヒント (文春文庫)

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